名のない足跡
あたしは半分に折った矢を、アズロに押し付けた。
「はい、あげる。自分の命は心配してないわ。ライトとアズロがいるし」
「うわ、すっげ信頼されてるし」
「喜ばしいことですよ、アズロ」
ライトは笑いつつも、アズロからあたしが折った矢を手に取り、それをさらに二度三度と折って、アズロの手中に戻す。
「…隊長、そーとーお怒りの様子」
ただの棒きれと化した弓矢を眺め、アズロが言う。
あたしは、うーん、とうなった。
確かに、犯人は捕まって欲しい。
でも、ライトに護ってもらうのに、あたしはすっかり慣れてしまった。
ライトに庇ってもらう度に、ドキドキする。
出来ればこのドキドキを、もっと経験したいなーなんて。
…あれ、不謹慎?
「顔、ニヤけてるけど」
アズロに指摘され、あたしは我に返った。
慌てて、ライトに見られてないか確認しようとした。
ライトは、割れた窓から、外を見ていた。
その光景が、二週間前のあたしの行動と重なって、何故か胸がざわつく。
ライトは時々、目を細めて、遠くを見つめる。
遠くっていっても、目に見える範囲の中じゃなくって、もっとずっと遠くを…。