名のない足跡
「まぁ、あーんなイケメンが近くにいたら、好きになっちゃうよね」
「ちょっ…、しっ、し―――!!」
あたしは慌てて、アズロの口を両手で塞ぐ。
「…わ、わかりやすかった?あたし」
「ふん、ほーははひはふい(うん、ちょーわかりやすい)」
「は―――…」
あたしは、肩を落として、アズロの口から両手を離す。
背を向けて歩き出すあたしに、アズロは後ろからついてきながら、話題を変えようとはしなかった。
「告んないの?」
「告っ…、直球ねー。アズロ」
あたしは歩きながら、ライトのことを考えた。
「…言わないよ、この気持ちは」
「何で?姫だから?」
ズキン、とあたしの心臓が鈍い音をたてた。
ライトへの気持ちが、大きくなればなるほど、疑問は沸いてくるばかりで。
…この気持ちは、伝えていいのか、悪いのか。
「痛いとこついてくるわね、アズロは」
「あれ、ごめん」
すぐに謝るアズロに、「いいけど」と言ってあたしは笑った。
「…それもあるんだけどね。今のままでいたいの」
あたしと、ライト。
姫と、護衛。
この関係は、すごく居心地がよくて、壊すことなんて出来ない。