名のない足跡
「では、ご遺体は後で確認するとして、この先どうするのです?」
どかっと腰掛けているデュモル隊長の横で、ユナ副隊長が険しい顔つきで問う。
「国王なしでやっていけるほど政治は甘くないでしょう」
「その件なのですが…実はもう後継者は決定されているのです」
アゲートさんは、ちらりと俺を見た。
いや、正確に言うと、俺が抱いている人物を見た。
…嫌な予感がする。
「国王様が王位を継承なさったその日、何が起こるかわからないこの先のことを考えまして、後継者については話されておりました。直筆の証書もここにあります」
アゲートさんは胸ポケットから、茶封筒を取り出して見せ、「当然、」と続けた。
「第一王子であるラッド様を次期王に、と仰っておりました。しかし、今現在ラッド様は行方不明となっておりますのはご存知でしょう。国王様は、万が一ラッド様の身に何か起こり、王位を継げなくなった場合は、と、こう仰ったのです」
「―――第一王女であるルチル様へ、王位を譲る、と」
俺の嫌な予感は見事に的中し、思わずうめき声をあげてしまった。
その場の全員が互いに顔を見合わせる。