名のない足跡
「アズロは、いつもあたしを護ってくれたじゃない。…今更帰れなんて、言えないよ」
あたしは、ライトとウィンを見て、一応尋ねる。
「いいわよね?」
「はい。アズロは優秀な人材ですし」
「お前の無鉄砲さに、ついてこれてるしな」
ウィンにあっかんべーをしてから、もう一度アズロを見て言った。
「…改めて、よろしくね、アズロ!」
その時のアズロの笑顔は、本当に輝いて見えた。
†††
一階の渡り廊下に、アズロは一人たたずんでいた。
外の池に浮かぶ月を、ぼんやりと眺めている。
背後から忍び寄る気配に気づき、アズロは振り返った。
けれど、知った顔だったので、アズロは安堵のため息をつく。
「…はー。何だ、びっくりした」
その人物は、アズロと一定の距離が離れた所で立ち止まり、黙っていた。
その表情を見て、アズロは相手がためらっているのを見抜いた。
「…オレに、聞きたいことあるんでしょ」
ハッと息をのむ音が、静かに響き渡った。