名のない足跡
「もし、あっち側に戻るなら…オレは、あんたと戦うまでだよ、隊長」
強い風が吹き、ザワザワと木々が揺れる。
水面に映る月は、風に揺られ、小さく歪んだ。
アズロと話していた相手は、風になびく髪をかきあげ、小さく呟いた。
「…迷惑をかけます、アズロ」
アズロが振り返った時、もうそこに、その姿はなかった。
アズロはため息をついて、空を見上げた。
「あーあ。…面倒くさいことになりそう」
そう言って、アズロもまた、その場を去った。
そのような会話を、すぐ側で聞いてしまった人物がいたことを、その時アズロは全く気づいていなかった。
†††
「デュモル」
早朝、爽やかな秋晴れの中、広場の中央で一人素振りをしていたデュモルは、旧友に名前を呼ばれ、振り返った。
「…何だ、セドニーか」
「何だとは何だ、失礼な奴め」
「つーか、どーしたよ。お前が俺に会いに来るなんて」
たった今まで振り下ろしていた剣を鞘に収め、デュモルはセドニーの側まで歩み寄る。
「いや、ただ…お前の考えを聞こうと」
「俺の考え?…暗殺事件のか?」