名のない足跡

「…っ冗談ではない…」


伝令部のカーネ司令官が、顔を真っ青にして立ち上がった。


隣にいたデュモル隊長が顔をしかめる。


「冗談ではないぞ!! 私は、国王が彼だったから、司令官として情報を手に入れる為、時には危険を冒しまでした!! それほど王に信頼を寄せていたから、私は今までやってきたのだぞ!? それなのに、たとえ王の娘だとしても、こんな貧弱そうな娘に命を預けたくはない!!」


カチャリ…


俺は姫様を抱いていない方の手で、腰の長剣の柄に手をかけた。


そして、まだ大声で抗議している女性を冷たく見据えた。


これ以上姫様を侮辱するつもりなら…俺は、斬る。


「やめな、ライト」


近くに座っていたユナ副隊長に静かに声を掛けられ、俺は渋々と剣の柄から手を離す。


「彼女の言っていることは、一理あるんだよ」


「実際、王を慕ってる奴らばっかだしなぁ、ここの連中は」


俺もそうだし?と、デュモル隊長は付け加えた。


アラゴ国王は、兵たちに分け隔てなく接し、且つ聡明で、その口から紡ぎ出される意見は常に的を射ており、何よりもこの国を大切に思っている人だった。





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