名のない足跡
4.隣合わせの記憶
夢を、見た。
あたしは、気づくと暗い闇の中にいた。
辺りには何もなかった。
人も、建物も。
暗闇を照らす光さえも。
怖くなって叫んだけど、返事は何も返ってこない。
じっとしていたくなくて、駆け出しても、闇はどこまでもあたしを追いかけてくる。
それでも、あたしは力の限り走った。光を求めて。
心は不安でぐちゃぐちゃで、けど、不思議と涙は出なかった。
ふと、目の前に光が見えたような気がして、胸が躍る。
よかった。やっぱり光はあったよ。
あたしは最後の力を振り絞って、光に向かって走った。
小さな光に触れると、そこは、あたしの大好きな国に変わった。
父様、母様、兄様…みんないて、あたしに手を振ってくれてる。
あたしも笑って手を振って、足を一歩踏み出そうとした。
誰かに手を掴まれて、振り返る。
あたしの後ろはまだ闇で、ライトはそこにいた。
ライトは何も言わずに後ろを向き、闇へと歩き出した。
光には、大好きな父様たち。
闇には、大好きなライト。
どっちも選べず戸惑うあたしに、ライトは小さく一言呟いて、闇に溶けた。
あたしは、そのとき静かに涙を流した。