名のない足跡

†††


目を覚ましたとき、あたしは自分の頬が濡れていることに気づいた。


右手でゆっくり涙を拭って、ぼーっと天井を見つめた。



…また、同じ夢だ。



アズロが自白してくれた次の日から、矢が飛んできたりすることが、パタッと止んだ。


アズロのことがバレたんじゃないかって心配するあたしに、「偶然だって」とアズロは笑って言ってたけど…。


その後からだった。


同じような夢を見るようになったのは。



毎日見るわけじゃないけど、夢を見るときは、決まってあの夢。


妙にリアルで、思い出すとまた切なくなる。


…ライト…


あたしは胸元をぎゅっとつかむと、ベッドから下りて、着替え始めた。



―――悩んだときは、とりあえず動け。



これも、兄様の口癖だった。


兄様の行方は、未だつかめないでいるんだけど。



あたしは素早く着替えると、そっと部屋を出た。


ひんやりとした空気が、あたしの嫌な気持ちを少し和らげる。


あたしは、ふらふらと廊下をさまよっていた。


まだ朝早いから、誰も見当たらない。



< 184 / 325 >

この作品をシェア

pagetop