名のない足跡
†††
目を覚ましたとき、あたしは自分の頬が濡れていることに気づいた。
右手でゆっくり涙を拭って、ぼーっと天井を見つめた。
…また、同じ夢だ。
アズロが自白してくれた次の日から、矢が飛んできたりすることが、パタッと止んだ。
アズロのことがバレたんじゃないかって心配するあたしに、「偶然だって」とアズロは笑って言ってたけど…。
その後からだった。
同じような夢を見るようになったのは。
毎日見るわけじゃないけど、夢を見るときは、決まってあの夢。
妙にリアルで、思い出すとまた切なくなる。
…ライト…
あたしは胸元をぎゅっとつかむと、ベッドから下りて、着替え始めた。
―――悩んだときは、とりあえず動け。
これも、兄様の口癖だった。
兄様の行方は、未だつかめないでいるんだけど。
あたしは素早く着替えると、そっと部屋を出た。
ひんやりとした空気が、あたしの嫌な気持ちを少し和らげる。
あたしは、ふらふらと廊下をさまよっていた。
まだ朝早いから、誰も見当たらない。