名のない足跡
急に声をかけられたときは、心臓が飛び出るくらい驚いた。
「ルチルちゃん?」
「!!!???」
「あっ、やっぱそうだ!どうしたの?」
ロードさんが、ヒラヒラと手を振りながら近づいて来た。
このとき、あたしは急に涙が零れ落ちてきたことに気づいて、慌てて拭った。
「あっ、すみませ…」
「えっ?何?本当にどうしたの!?」
「な、何でもありませ…」
「何でもないわけないでしょ!!」
いきなり、ロードさんに手首をつかまれ、あたしは小さな部屋に連れていかれた。
その部屋には、丸机と椅子が二脚ポツンと置いてあるだけだった。
ロードさんに促されるままに、あたしは扉に近い方の椅子に座った。
「…ど?落ち着いた?」
向かい側に腰掛けながら、ロードさんが聞いた。
あたしは少し微笑んでから答えた。
「…はい。すみません」
「いいのよ!乙女の涙は放っておけないしね」
軽くウインクをしてから、ロードさんはずいっとあたしに顔を近づけた。
「で?どーしたの?」