名のない足跡
あたしはポカンとしてから、ロードさんの言葉を理解して、がっくりと肩を落とした。
「そ…そうだったんですか…」
「よく誤解されるのよねぇ」
はぁ、とロードさんはため息をつきながら、指輪を見つめた。
しばらくの沈黙の後、ロードさんはぽつりと言った。
「…あたしも話しちゃおっかな」
そう言って顔を上げたロードさんと目があって、あたしはにっこりと頷いた。
「…実はあたしの好きな人ね、死んじゃったの」
あたしが衝撃を受けて何も言えずにいると、ロードさんは弱々しく微笑んで、続けた。
「あたしの好きな人は、書籍部長官だった。セドニー長官の前にね。十年前…あたしが十四のとき、初めて出会ったの」
その時の思い出を噛みしめるように、ロードさんは瞳を閉じた。
「一目惚れだった。少しでも近づきたくて、一生懸命仕事をしたわ。二年後、あたしは副官になったの」
「…え?」
あたしは思わず、声を出してしまった。