名のない足跡
†††
「どこに行ってらしたのですかっ!ラッド様!!」
涙目でそう言っているのは、アゲートさん。
兄様の帰城は、瞬く間に城中に知れ渡った。
今日中には、国民にも知らせなきゃいけない。
今、この執務室には、あたしと兄様、ライト、ウィン、アズロ、アゲートさんの計六人がいる。
ウィンとアズロは兄様と初対面だからか、妙に態度がよそよそしい。
アゲートさんに質問された兄様は、あははと笑う。
「いやぁー、世界中をこう、ぐるっと」
兄様は人差し指で、くるくると空中に円を描く。
「こんな大変な時にッ…、ルチル様も、何か仰って下さい!!」
きぃ~ッ、とでも言ってハンカチでも噛みそうなアゲートさんの様子に、あたしはたじろぎながらも、兄様に話しかける。
「え…えーっと、兄様、元気?」
「んー元気。お前こそ、元気そうで何よりだよ」