名のない足跡
いつになく困った表情を見せる兄様を、あたしはただ黙って睨む。
怒ってるわけじゃなくて、そう言われると、どうしたら許せるのかって考えてしまう。
何かをしてほしいわけじゃない。
何かを貰いたいわけじゃない。
ただ…
「ただ、近くにいてくれればいいの」
あたしは、すがるように兄様を見た。
「…もうどこにも行かないで、兄様」
兄様は、目を細めて笑った。
「何か、告白されてるみたいだなぁ、俺」
「…兄様のばか」
あたしがふざけてぷいっと顔を背けると、兄様はあたしの頭を優しくなでた。
「…そうだな、約束するよ」
その言葉を聞いて、あたしは兄様の胸に飛び込んだ。
それからは、父様が死んでしまった後のことを、細かく兄様に話した。
一年であたしが認められなかったら、王位は兄様に譲る、と宣言した話になると、兄様は首を横に振った。
「国民は、もうお前を認めてるよ」
「…そんなこと、ないよ」
「あるさ。国を離れてた俺なんかより、お前の方がずっと王にふさわしい」