名のない足跡
あたしは口を尖らせ、ずっと抱いていた疑問を口にした。
「…兄様、本当にどこにいたの?教えて、本当のこと」
兄様は、腕を組み直して、ああ、と短く呟いた。
「最初から、お前にだけは話すつもりだったよ」
「えっ、そうなの?」
「ああ。話すと、長くなるぞ」
あたしは、ごくっと喉を鳴らして頷く。
「…うん」
「それに、少々キツいかもしれない」
兄様の表情が陰ったことに、あたしは不安を覚えた。
「…キツい、の?」
「その話になればわかる。…まず、俺はこの三年間、父さんの命を受けてウェルス国の臣下になった」
「ウェ…えええぇ!? じゃあ、兄様今までウェルス国にいたの!?」
驚きのあまり、あたしは大声を上げてしまった。
しかも…父様の命令で!?
「そ。もちろん正体を隠して、出世もしないように常に下っ端として働いてた」
「モルファと…ルーカも?」
「一人より三人のが効率いいからな。…俺たちは、何をしてたと思う?」