名のない足跡
「王冠は、まぁ、誰にでも手に入れられるとしよう。でも、呪文はどこに記されているかわからないんだ。その存在しか知らされてないらしい」
その時、あたしの頭の中で、何かがひらめいた。
そのきひらめきは、徐々に形をつくっていく。
「兄様…」
「ん?」
「あのね、ウィンっていうあたしの補佐が、この前言ってきたの。父様は、見ちゃいけない何かを見たから、自殺したんじゃないかって」
すると兄様は、驚いた表情をして言った。
「その補佐、頭いいな。…その話のとき、周りに人は?」
「ううん、いなかった。あたしとウィンだけ。…ってことは、やっぱり?」
「おそらくな。父さんは、その呪文が記されているものを、見てしまったんだ」
あたしは、急に全身の力が抜け、椅子の背に寄りかかった。
そのすぐ後に、怒りがふつふつと沸き上がってくる。
「…おかしい、こんなの」
「…ルチル」
心配そうにあたしの顔色を伺う兄様に、あたしは抑えようのない怒りをぶつけた。