名のない足跡
「おかしいよ!そんな兵器、誰が何の為につくったの!?どうしてそれをこの国の秘密にするの!?そんなものの為に、父様は…っ」
哀れみを含んだ兄様の瞳を見ていたくなくて、あたしは顔を背けてから続ける。
「…死んじゃったの?」
「ルチル、そんなものの為じゃない。父さんは、この国を護ろうと…」
兄様のその言葉で、何故かあたしはカッと頭に血が上った。
「護る?死ぬことが護ることなの!? 父様が死んだことで、この国は傾きかけたじゃない!!父様は、この国を捨て…」
小さな音が、執務室に響き渡った。
兄様に叩かれた左頬が、じわりと熱を帯びる。
「まだわかんないのか!?」
普段、めったに怒らない兄様の大声は、あたしの言葉を奪うのには充分だった。
「その呪文を知った父さんは、どうなる!? いつかそのことがバレて、敵に狙われ、拷問されるかもしれない!! 国民が、あるいは俺たち家族が、人質にされるかもしれない!! そんな不安を一瞬にして父さんは背負ったんだ!!」