名のない足跡
両目から涙が溢れ、あたしの視界を揺らす。
それでも、兄様の苦痛に満ちた表情は、しっかりと見て取れた。
「それしかなかったんだよ…!父さんが、大切なものを護る方法は…!!わかってくれよ、ルチル………」
わかってる。
わかってたよ。
あたしは心の中で呟く。
父様が、国を捨てるはずなんてないのに。
…わかってたのに。
でもあたしは、父様が背負わされた運命が、すごく憎くて仕方なかった。
「…どうすればいいの…?」
行くあてのない気持ちを、言葉にして吐き出す。
もうそれしか、気持ちを紛らわせることが出来なかった。
「あたしは、どうすればいいの…!?」
兄様は、唇を噛み締め、何かを決心したように、あたしを見据えた。
「…いいか、ルチル。ウィリーはその核兵器を狙ってる」
あたしは、涙を拭いながら、無言で頷いた。