名のない足跡
「先ほどは、取り乱して済まなかった。…国王が護ってきたこの国を、私は護りたい」
ふと、俺はその横のメノウ交易官を見た。
しきりに頷いている。
…やっぱりこの人は話さない主義なのか…?
疑問が一つ増えたところで、アゲートさんはパン、と手を叩いた。
にっこりと(今度は本当の笑顔で)、「うん、うん」と言った。
「さて、ライトくん。…君は?」
急に話を振られた俺は、そっと瞳を伏せ、手元に横たわる姫君を見る。
微かな温もりを、俺の手のひらが感じる。
「我が命に代えても、お護りいたします」
俺の答えに、アゲートさんは満足したように微笑んだ。
「…大変よろしい。皆様、厚くお礼申し上げます。それでは早速、今後の活動について…」
長々とした話が始まった。
俺の腕の中で、姫様は寝返りをうつ。
その顔は、この後に待ち構える運命を、何も知らないかのように幸せそうで。
俺はそっと、姫様を抱く腕に力を込めた…。
―…そのときあたしは、夢を見ていた。
とても幸せな、夢を。