名のない足跡
ライトに言われて、あたしの頬を涙が流れていることに気づいた。
慌てて拭おうとすると、ライトの手がそっとあたしの頬に触れる。
自然に、ライトとあたしの視線が絡んだ。
あたしは、ライトのその瞳が、あの夢の中のライトと重なって見えた。
「………ライト」
「はい?」
今まで拭えなかった不安は、このときは、いとも簡単に言葉に出来た。
「…どこにも…行かないよね…?」
ライトの冷たい指先から、寒さを感じる。
それと同時に、微かな震えも伝わった。
「何言ってるんですか!」
このライトの笑顔は、今までのあたしの不安を消すのには、十分だった。
「そっか…そうだよね!ごめんね、変なこと聞いて!」
「いいえ。それより姫様…俺と、踊ってくれませんか?」
ライトが、スッと右手を差し出す。
あたしは、少し照れながらその手をとった。
「…うんっ!」
…だから、気づかなかったんだ。
あたしの言葉に、ライトがはっきりと
"どこにも行かない"
と、言ってくれなかったことに―――…