名のない足跡
3.いばらの道
楽しかったパーティーは、一瞬にして地獄へと変わった。
奏でられていた旋律は、爆発音や恐怖の叫び声に呑み込まれる。
「ルチル!!」
兄様が、すぐにあたしのもとへ駆け寄って来て、告げた。
「ウェルス国軍が、侵入してきた…!!」
「………!?」
よりによって、こんな時に。
あたしが口を開くより先に、兄様はあたしに言った。
「いいか、ルチル!こういうときどうすればいいのか、俺は教えたよな!?」
「でもっ…兄様…」
今や、大広間は大混乱に陥っていた。
人々は互いに出口へ向かおうと、押し合っている。
兄様はその状況を横目で確認すると、あたしの肩をつかんで言った。
「何があっても、お前は逃げろ。…自分を信じるんだ」
あたしは兄様の瞳を見て、ゆっくりと頷いた。
兄様は、あたしの横にいるライトを見る。
「ライト、ルチルを頼む」
「はい」