名のない足跡
ライトの返事を聞くや否や、兄様は声を張り上げた。
「落ち着け!!」
その言葉で、大広間内の人々の叫び声は、ピタリと止まった。
響いてくるのは、どこかの爆発音と、敵軍の雄叫びだけ。
兄様は、一番近くのテーブルの上に立ち、さらに声を張り上げた。
「この大広間には、結界が張ってある!!文官、メイド、執事は、静かにここで待機だ!武官の者は、速やかに武装し、ウェルス国軍を迎え撃つこと!」
兄様はそこで言葉を区切り、大広間をぐるりと見渡した。
「俺たちがまずすべきことは、国王・ルチルを護ることだ!いいな!?」
一瞬の沈黙の後、大広間内の人々は、速やかに行動を開始した。
文官は、セドニー長官がまとめ、メイド・執事はアゲートさんが指揮する。
デュモル隊長は武官を従え、大広間を出ていく。
その後を、追いかけるように出て行こうとする兄様に、あたしは叫んだ。
「…兄様!! 無理しないでね!!」
兄様はあたしの大好きな笑顔を見せて、すぐにあたしの視界から消えた。