名のない足跡

ライトの返事を聞くや否や、兄様は声を張り上げた。


「落ち着け!!」


その言葉で、大広間内の人々の叫び声は、ピタリと止まった。


響いてくるのは、どこかの爆発音と、敵軍の雄叫びだけ。


兄様は、一番近くのテーブルの上に立ち、さらに声を張り上げた。


「この大広間には、結界が張ってある!!文官、メイド、執事は、静かにここで待機だ!武官の者は、速やかに武装し、ウェルス国軍を迎え撃つこと!」


兄様はそこで言葉を区切り、大広間をぐるりと見渡した。


「俺たちがまずすべきことは、国王・ルチルを護ることだ!いいな!?」


一瞬の沈黙の後、大広間内の人々は、速やかに行動を開始した。


文官は、セドニー長官がまとめ、メイド・執事はアゲートさんが指揮する。


デュモル隊長は武官を従え、大広間を出ていく。



その後を、追いかけるように出て行こうとする兄様に、あたしは叫んだ。


「…兄様!! 無理しないでね!!」


兄様はあたしの大好きな笑顔を見せて、すぐにあたしの視界から消えた。



< 228 / 325 >

この作品をシェア

pagetop