名のない足跡
けど、地下への階段の前で、あたしたちは十五人ほどのウェルス国軍に囲まれてしまった。
ライトが配置していたはずの衛兵は、既に床に横たわっていた。
冷や汗を流すあたしの横で、ライトの舌打ちが聞こえた。
「…仕方ない。 姫様、ここは俺とアズロで食い止めるので、姫様は先に行って下さい」
じりじりと迫ってくる敵を見据え、あたしは小さく返事をした。
あたしがいても、邪魔なだけ。
二人に任せて地下へ行こうとしたその時。
「オレに任せて」
そう言って、アズロは一歩前に出て、剣を抜き、構えた。
「ちょっ…アズロ!? 十五人を一人で相手に出来るわけっ…」
「アズロ、姫様の前だからってかっこつけないで下さい」
あたしとライトが口々に文句を言うと、アズロはため息をついた。
「あのさぁ、オレだってやるときゃやるの。今一番危険なのは、姫サマを一人にすることでしょ。…オレなんか代わりはいくらでもいるけど、君にはいない」