名のない足跡

王冠を抱えたあたしとライトは、さらに奥へと足を進めた。


息が切れてきた頃、行き止まりの場所へ着いた。


「姫様…一体どこに呪文が?」


「兄様から、呪文へたどり着くための鍵を教わったわ」


「…鍵?」


あたしは、行き止まりとなっている壁の周囲を見渡す。


…見つけた。



本当に隅の方に、小さな穴が開いていた。


あたしはそこへ駆け寄り、王冠の頭上についている十字架の先端を、そっと穴へと差し込んだ。



どこからか、カチリと音がして、行き止まりの壁から隠し扉が現れ、外側へと開いた。


あたしとライトは互いに目配せをし、静かに…その奥へと、足を進めた。



その奥には、大きな空間が広がっていた。


その中心に、正方形の石碑のようなものが、ひっそりとたたずんでいる。



あたしは導かれるように、その石碑に近づくと、そっと手のひらを当てた。


ひんやりとした感触が、手のひらを通して伝わってくる。


あたしは、静かに涙を流した。




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