名のない足跡
「…ライト…あったよ」
ライトが近づいて来る足音が反響して、あたしの耳に届く。
目の前には、呪文が刻み込まれた石碑。
その石碑の右下に、小さく刻み込まれた文字。
"ラッド、ルチル、愛している"
それは紛れもない、父様の最期の言葉。
あたしは深呼吸をして、涙を拭った。
「ライト、紙と…ペン持ってない?」
「持ってませんが…。まさか、書き留める気ですか?」
あたしは、肯定の代わりにウーンと唸った。
「呪文って…本に書いてあるとか、そういう持ち運び出来るものだと思ってたんだけど。…あー、どうしよ!ウィンがいてくれたら…」
あの速読と記憶力が、あたしにあればよかったのに!!
必死に頭を回転させていると、ライトがポツリと呟いた。
「戻りましょう」
「…え!? だめよ!! この呪文を記録して、これ壊さなきゃ!!」
「その王冠がない限り、ここには誰も入れませんよ?一旦戻って、改めて…」
「そうだけど!」