名のない足跡
息を切らし、執務室へ飛び込んだあたしは、自分の机の上から、適当に紙とペンをつかむ。
「…姫様」
「…え?」
ライトに呼ばれ、振り返ったあたしは、その真剣な瞳を見た。
「…秘密の兵器を、この世から消し去る方法…あるじゃないですか」
どくん、と心臓が大きな音をたてる。
何も言わないあたしに、ライトは続けた。
「その王冠…。それを壊せばいいんです」
ライトはゆっくりと、あたしが抱えている王冠を指さす。
あたしは王冠を見てから、ライトに視線を戻した。
「…壊せると思う?壊せてたら…父様がもうとっくにやってたわよ」
「そんなの、わからないじゃないですか。やってみますよ、俺」
笑ってそう言うと、ライトはあたしに近づく。
あたしは、抱えていた王冠を、無言でライトに渡した。
ライトは、手にとった王冠を眺めて、ふっと笑った。
「…参ったな。俺は、あなたに相当信頼されていたようだ」
その冷たい笑みが、あたしに向けられたものだと知ることに、そんなに時間はかからなかった。
その瞬間。
あたしの中で、何かが鈍い音を立てて、崩れ落ちた。