名のない足跡
ライトに気づかれたくなくて、込み上げてくる嗚咽だけは、必死に飲み込んだ。
「弟がついに二十歳になった時、国王は自らで命を絶ってしまいました。弟は悲しむと同時に、自分が手をかけずに済んだことに安心しました。けれど、姫が王位を継ぐことになり、弟は再び不安になりました。姫を殺すことは、弟にとってもっと難しかったからです」
ねぇ、こっちを見てよ。
あたしは矛盾しつつも、そう思った。
見られたくない。
でも、こっちを見て話してほしい。
「弟の心配は、その時はなくなりました。父に、しばらくは様子を見ろと言われたからです。しかし、しばらくして、姫と他国の仲が深まったことを知った父は、兵器が手に入れにくくなることを恐れ、姫を殺すよう、臣下を手向けました」
ライトが、ゆっくりと窓を開けた。
冷たい風が部屋に入り込む。
雪は、まだ降り続いていた。
あんなに幸せだった時間が、遠くに感じる。