名のない足跡
「けれど、父は本気ではなかったのです。父は、弟を試していました。兄のように、自分の言うことを聞かないのではないかと、父はいかぶっていたんです」
ライトは、そして、と呟き、静かに振り返った。
「今日、運命の日がやって来たのです。弟は今、決意を胸に、姫に全てを話しました」
「…昔話は、それでおしまい?」
頬を伝う涙を拭いながら、出来るだけ強い口調でそう言った。
強がっていないと、泣き崩れてしまいそうで、怖かった。
「はい。おしまいです」
「あたしを…殺すの?」
ライトは一瞬目を見張り、まさかと言った感じで、首を横に振る。
「言ったでしょう?あなたを殺すことなんて、俺には出来ない」
「あたしが今、王冠返せってライトに飛びかかっても?」
「出来ませんよ」
それが、あたしがライトに飛びかかることが"出来ない"と言ってるのか、それともライトがあたしを殺すことが"出来ない"と言ってるのかわからなかった。