名のない足跡
ライトは小さく笑うと、あたしに聞いてきた。
「聞かないんですか?俺の決意」
「…聞かなくたって、わかるわよ」
王冠を手に取った。
そんな昔話をした。
…それが、ライトの答え。
ライトの答えの中に、あたしはいない。
「止めないんですね。いいんですか?俺はあの時、呪文を記憶しました。そして、王冠も手に入った」
今あたしの目の前にいるのは、もうあたしの護衛隊長じゃない。
しっかりとライトの目線をとらえ、あたしは言った。
「いいわ。だってその王冠、本物じゃないもの」
ピクリと反応したライトは、険しい表情で王冠を見た後、あたしに笑いかけた。
「嘘でしょう?この王冠の十字架で、隠し扉の鍵を開けたじゃないですか」
「嘘じゃないわ。…じゃあ、言い換えるわ。その十字架だけは、本物」
ライトは、素早く十字架を見た。
「…これは…」
「そう。ただの普通の王冠に、鍵となる本物の王冠の十字架をつけただけよ」