名のない足跡

全て、兄様がやってくれたこと。


敵の手に渡ってしまったときの為に、と。


「本物は…どこに?」


射抜かれるような視線を向けられても、あたしは動かなかった。


「…どこだと思う?」


「ははっ、意地悪になりましたね」


肩を揺らして笑うライトを見て、あたしの胸は小さく疼いた。


あたしは震える手で、胸元をぎゅっとつかむ。


「よく…考えてみればわかるわ。代々受け継がれる王冠が、綺麗なままのわけがないもの。その王冠は、父様の前の王の代に造られたものよ」


「それじゃあなたは、本物は古びた王冠だと?」


「ええ。実際、その十字架も磨いてはいるけど、完全に錆はとれてないわ。…わかるでしょ?十字架がとれるくらい、もう王冠は脆かったってこと」


あたしのその言葉で、ライトには十分伝わったらしく、ため息をついた。


「…参ったな。壊してしまったんでしょう?」


「…ええ」



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