名のない足跡

「でもね、あたしはそこまで望んでなくって。ただ普通に平凡な毎日を笑って過ごせるなら、それで充分幸せだなって思ってた。実際、毎日楽しかったし」


ライトは無言で先を促した。


あたしは天井に伸ばした手を、コツン、と額に当てる。


「それなのに…今日…すべて壊されちゃった。平凡な毎日も。幸せも、全部よ…?」


やばい。涙出そう。


あたしはとっさにそう思って、何とか涙を引っ込めようとしたけど、そう簡単に止まるものでもなく。


逆に、止めようと思うほど、感情が込み上げてくる。


「あたし…母様が死んじゃって悲しかったけど、辛くなかった。父様も兄様もいたから。兄様が行方不明になっても、兄様は大丈夫って思ってたし、やっぱり父様がいたから平気だったの。でも…でも今は、誰もいないの。あたしのそばに、誰、も」


最後の言葉は、溢れ出る涙のせいでしぼんでいった。


「それにっ…王、なんて、無理だよ。あたしに出来るわけない…。父様が治めてきたこの国…きっと、あたしが壊しちゃう。みんなの夢を、あたしが壊しちゃう…!!」


ぽろぽろとこぼれ落ちる涙が頬を伝う。


心はぽっかりと穴が開いたみたいだった。




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