名のない足跡
正確には、兄様が夜中宝庫へ入り、厳重に保管されていた王冠を見つけた。
すでに錆がひどく、兄様の高度な呪文で、王冠は簡単に砕け散った。
十字架の部分を残し、兵器の鍵となる王冠とは別の王冠に取り付けた。
…替え玉として。
つまり。
「鍵の片方は、消えたの。兵器が発動することはないわ」
あたしの声が、静かに響いた。
ライトは何も言わず、あたしに近づいて来て、手に持っていた王冠を、あたしの頭に乗せた。
「…偽物だとわかっていたから、すんなり俺に渡したんですか?」
その姿が、戴冠式の時の姿と重なった。
「…違うわ。ライトを…信じてたから」
信じてた。
そんなはずはないって。
ライトは違うって。
…信じてたのに。
あたしは、ライトの服の裾をつかんだ。
「ねぇライト…どうして?」
他にも、言いたいことはたくさんあった。
聞きたいことは、たくさんあった。