名のない足跡
そこでウィンは、ふっと笑った。
「俺にとっても好都合だ。邪魔者が消えるわけだし」
俺の手が、ピクリと反応した。
あのひとも連れて行けたら、どんなにいいか。
でもそんなことをする資格なんて、俺にはない。
「言いたいことは、それだけですか?それなら、俺は行きます」
ウィンが何も言わないので、俺は一歩踏み出すと、ウィンのいる方向へ歩き出す。
そのまま走ってしまえばいいのに、なぜか、それが出来なかった。
無言のまま、ウィンとすれ違う。
ウィンが見えなくなったことで少し安心した俺は、走ろうと足にぐっと力を込めた。
その時だった。
「…今でも、信じてる。俺も…アイツも」
俺は振り返らなかった。
決心が揺らぐ前に、早くこの場を立ち去りたかった。
「…ありがとう」
そう呟き、俺は走り出した。
さっきまで降っていた雪は、いつの間にか闇に溶けていた。