名のない足跡
すぐそばに、ライトの気配があった。
泣き顔を見られたくなくて、背を向ける。
「…姫様」
…無視。
「キスしますよ」
がばっ!!
ものすごい勢いであたしは起きあがった。
「なっ!? ちっ、近づかないで―…」
「冗談ですよ」
出たっ、屈託のない笑顔。
あたしは殴りたい衝動に駆られた。
「重く受けとめすぎなんですよ、姫様は。国を治めるなんて、誰にだって出来るものじゃないし、優れてる人でも完璧になんて出来ない。国王が良い政治を行っていたって、人の夢は崩れるときは崩れるし、死ぬときは死ぬんですよ」
「…す、すごいことサラッと言うわね」
「楽観的に考えなきゃ、やっていけませんよ―?先ほどアゲートさんが仰っていたように、臣下はあなたの力になります。政治は一人で行うものじゃないですよ」
それに、と少し怒ったようにライトは付け加える。
「そばに誰もいないなんて言わないで下さい。…俺がいるでしょう」
…全く、ライトには敵わない。
「うん…ごめんね…そうよね」
次第に落ち着きを取り戻すあたしを、ライトはやさしくぽんぽん、と撫でてくれた。