名のない足跡
兄様はぐるり、とあたしたちの顔を眺めて、口を開いた。
「…これから、ウィリーが何も仕掛けてこないとは、言い切れない。城の修復を第一とし、引き続き対策を行っていこう」
一人、また一人と、無言で頷く。
それを確認してから、兄様はあたしの真横まで来た。
「…お前は、よくやったよ。ルチル」
「……兄様」
「国の為に、もうひと頑張り出来るか?」
あたしは、ゆっくりと胸の前で拳を握った。
「………うん!」
兄様は目を細めて、あたしの髪をかき混ぜる。
「…ちょっ、兄様ッ」
「本当、最高だよお前」
「これでおしとやかだったら、文句ないんっすけどねー」
「…アズロー?」
横からなんとも失礼な茶々を入れてくるアズロを睨みながらも、あたしは思いっきり笑った。
辛い気持ちを、吹き飛ばすように。