名のない足跡
「…確かに、昔より覇気というか…自信が無いようだな」
ハッと顔を上げたメノウは、全てをも見透かすかのようなカーネの瞳を見て、小さく微笑んだ。
その微笑みは、旧友だからこそ見せられるもの。
「流石だな。その洞察力、私にも分けて欲しいよ」
「ハッ。貴様のような堅物には一生かけても無理に決まっている」
そう吐き捨てつつ、カーネは近くのソファに腰を掛けた。
その態度を見て、メノウは苦笑せずにはいられない。
本当に、彼女は変わらない。
羨ましいほどに。
「…さて、何か飲み物でも入れなければ叱られるかな」
「よくわかってるじゃないか。だが私は―…」
「フォーサス国最南端の街、マラ産の紅茶しか飲まない、だろ?」
「…わかってるなら、さっさと煎れろ」
そう言えば今目の前にいる人物は、自分を良く知る数少ない人物の中の一人だということを、カーネは改めて思い知った。
まさかそんな細かいことまで覚えているとは、流石に彼女も思っていなかった。