名のない足跡
「それでもあの頃は、毎日が楽しかった。違うか?」
「…違わない」
メノウの問いに、カーネは不服そうであったが、ボソッと答えた。
と、同時に、認めた自分が許せなくなったのか、拳を作ってソファの肘掛けを叩く。
「…っだが!今となっては私はアイツが許せん!昔からずる賢く、人を小馬鹿にしたような笑みは許せなかったがっ…、何よりも、裏切ったのだアイツは…ウィリーは!!」
乱れた息を整えているカーネを、メノウは黙って見ていた。
そう、彼は裏切った。
もしかしたら、初めからこちらを信じる気などなかったのかもしれない。
そう考えなければ、昔の彼が何故変わってしまったのかが、結び付かなかった。
メノウとカーネ…そしてフォーサス国前国王であったアラゴは、昔のウィリーを知る、数少ない人物だった。
「…懐かしいな。まだ覚えている。アラゴ様とウィリーに出会った日の事を」
「…私も覚えているぞ。アラゴ様は命の恩人だからな」