名のない足跡
「…驚いたよな。ウェルス国の新王就任の知らせが届いた時は」
「驚きより、怒りの方が強かったぞ私は。貴様も見ただろう?その知らせを聞いた時のアラゴ様の表情を」
アラゴはその知らせを聞いた時、ただ微笑んだ。
そうか、と小さく呟いて。
「悔しかったに決まっている!悲しかったに決まっている!」
またカーネがソファの肘掛けを叩きだしたので、メノウは呆れつつも同意した。
「カーネ、私のソファを壊さないでくれ。…確かに、そうだな。あれからウィリーは、私達に会いにも来なかった。裏切り以外の何物でもない」
そしてその結果が、これだった。
アラゴは死に、娘のルチルが王位継承。
兵器を狙い、ウィリーはカルム城を奇襲。
自らの目的達成の為に、二人の息子を使った。
なんの躊躇いもなく。
零れ落ちたものは多く、手に入れたものは何もない。
そして運悪く、今この国を支えているのは、十七歳の少女であった。