名のない足跡
事の発端は、ルチルのたった一言だった。
「ロズッ!! …あたしに、魔術教えて!!」
いきなり頼まれたロズはもちろんのこと、側にいたウィンとアズロも驚いた。
それでも、ルチルの気迫は凄まじく、ロズもうんと言わざるを得なかった。
それから一日に一時間は、こうして中央広場で魔術の練習をしているのであった。
もちろん、ウィンは元々魔術が使えるし、アズロは逆に魔術は必要ない。
よってこの二人は、黙って(…というわけでもないが)傍観を決め込んだ。
「しっかし、今頃魔術ねー…。誰かサンの影響?」
スパルタ教育を受け、ルチルがひぃひぃ言っている様子を眺め、アズロが言う。
それに対し、ウィンはため息と共に答えた。
「…それっきゃねぇだろ。あの単純バカには」
アズロはちらり、とウィンを見る。
「…補佐くんてさぁー…」
「補佐くん言うな」
「えー、でも慣れちゃったし…」
「…もう好きに呼べよ」
呆れ気味のウィンを見て、アズロは苦笑した。