名のない足跡
アズロは、んー…と唸ってから、適当に答えてみた。
「…あらそうだったの?とか?」
「惜しい。あ、気にしないで。だ」
…らしいと言えば、彼女らしい返答だった。
「極めつけは、俺の頬引っ張って、ほら笑う!だとよ、あのアマ」
チッと舌打ちをするウィンを見て、何故か頬を引っ張るという部分にアズロは胸を痛めた。
ルチルがそのような行動をとったのが、アズロのせいだとウィンが知ったら、恐らくアズロはぶちのめされるだろう。
「…困った姫サマの為に、なんかしてやりたいねー…」
「当ったり前だ。中途半端なまま終わらせてもらっちゃこっちが困る」
ルチルの特訓が終わるまでの間、ウィンとアズロは、一人の姫君と馬鹿な男について、延々と話し合っていた。
「わーん、ロズ!もう一回ーッ!!」
「いい加減にせーいッ!!」
…当の本人は、そんなことを知る由もなく。