名のない足跡

†††


柔らかい風に揺られ、小さな花びらがふわりと舞った。


「……っと」


デュモルはその花びらを数枚つかみ、胸ポケットにしまいこむ。


その様子を見たセドニーが、顔をしかめた。


「…何だ?デュモル。そんな趣味があったのか」


「…は?ちょっと待て、花びら集める趣味なんて俺にはないぞ」


「じゃあ何だ?せっかくお前の弱みを握れたと思ったのに」


今度はデュモルが顔をしかめ、セドニーの背中をバシッと叩く。


「痛っ…!」


「お前が俺の弱み握るなんざ百年早ぇーんだよッ!これはアレだ!」


「……っ、アレだと?」


「そ!これから行く場所へのお供え」


一瞬の沈黙の後、デュモルはどこからともなくビュービューと冷たい風が吹き荒れてきた…気がした。


しかもものすごく近くから、凍てつく冷気を感じる。


「…お前…お供えを花びら数枚で済ますつもりか?しかも、私が持ってきた花束の花びらを…?」


冷たい。


冷たすぎる。



デュモルは顔をひきつらせた。





< 284 / 325 >

この作品をシェア

pagetop