名のない足跡
†††
柔らかい風に揺られ、小さな花びらがふわりと舞った。
「……っと」
デュモルはその花びらを数枚つかみ、胸ポケットにしまいこむ。
その様子を見たセドニーが、顔をしかめた。
「…何だ?デュモル。そんな趣味があったのか」
「…は?ちょっと待て、花びら集める趣味なんて俺にはないぞ」
「じゃあ何だ?せっかくお前の弱みを握れたと思ったのに」
今度はデュモルが顔をしかめ、セドニーの背中をバシッと叩く。
「痛っ…!」
「お前が俺の弱み握るなんざ百年早ぇーんだよッ!これはアレだ!」
「……っ、アレだと?」
「そ!これから行く場所へのお供え」
一瞬の沈黙の後、デュモルはどこからともなくビュービューと冷たい風が吹き荒れてきた…気がした。
しかもものすごく近くから、凍てつく冷気を感じる。
「…お前…お供えを花びら数枚で済ますつもりか?しかも、私が持ってきた花束の花びらを…?」
冷たい。
冷たすぎる。
デュモルは顔をひきつらせた。