名のない足跡
3.孤城の一輪花
†††
柔らかな木漏れ日が、カーテンの隙間から差し込む。
彼は椅子に腰掛けたまま、頬杖をつき、目の前にいる我が子を見据えた。
「…――で、何の用だ」
「…突然すみません、父上。ただ、…この先どうなさるおつもりかと」
真紅の髪とは対照的な、冷たい碧眼を彼は細めた。
「…何故知りたがる?私がこれから何をしようと、お前には支障はない」
「他の…誰かには、支障が出るということですか」
「………ライト」
低い声で名前を呼ばれ、ライトは体を強ばらせた。
「お前が何を考えているのか、私の知ることではないし、知りたくもない」
「………」
「ただ、もし私の邪魔をするのであれば、放っておくわけにはいかない」
ライトは軽く低頭し、小さく言った。
「…そんなつもりはありません。不躾な質問はもうしません」
「…わかれば良い。去れ」
言われるままに、無言で去っていく息子の後ろ姿を、彼もまた、黙って見送った。
木漏れ日が、僅かに揺れた。