名のない足跡
「ウェルスに行って…ライトを連れ戻して来るか?」
ほら、兄様はやっぱ意地悪だ。
答えにくい質問をさらっと言うんだもん。
「…それ、は…わかんない」
これは、あたしの正直な気持ちだった。
戻ってきてほしい。
そばにいてほしい。
そう望むのは、あたしの一方的な気持ち。
ライトは、ウェルスを選んだ。
その決意が揺らぐことなんか、ないかもしれない。
「…ライトはきっと、あの王冠が兵器の鍵じゃないってわかってたと思う」
これは、まだ誰にも言ってなかった。
兄様がふと眉をひそめ、本当か?と聞いてきた。
「あたしの…戴冠式のときにね、ライトが王冠を被せてくれたの。記憶力がいいライトだから、十字架がなかったことぐらい覚えてたと思う」
もともとついていなかった十字架は、兵器の鍵である本物の王冠から取り付けたもの。
戴冠式のときは、十字架なんかついていなかった。
…それをライトが、あの日…早くから気づいていたとしたら。