名のない足跡

「ライトは…ちゃんと自分の意志でウェルスを選んでた」


気づいていたなら、黙ってればよかった。


『王冠壊す』なんて言わずに、ただあたしと地下へ戻り、あたしが呪文を書き留めている間、本物の王冠を探せばよかった。



そこで本物は壊されたことを知っても、黙ってればよかったのに。



この国に残る方法は、きっといくらでもあった。


でもライトは、その全てを切り捨て、早々とウェルスへの道を歩んだ。



…それが、答えだった。


「…ライトの気持ちを…変えることなんて、出来ないかもしれない」


珍しく弱気なあたしを、兄様は心配そうに見る。


でも。


「…でもね、まだ聞きたいことがたくさんあるの。伝えたいことがたくさんあるの」


楽しかった?


辛かった?


あたしは…楽しかった。



…好きなの。


―――大好きなの。



「その答えがどうであれ…ちゃんと確かめたい」


真っ直ぐに兄様の瞳を見て言うと、兄様は優しく微笑んでくれた。



< 291 / 325 >

この作品をシェア

pagetop