名のない足跡
「ライトは…ちゃんと自分の意志でウェルスを選んでた」
気づいていたなら、黙ってればよかった。
『王冠壊す』なんて言わずに、ただあたしと地下へ戻り、あたしが呪文を書き留めている間、本物の王冠を探せばよかった。
そこで本物は壊されたことを知っても、黙ってればよかったのに。
この国に残る方法は、きっといくらでもあった。
でもライトは、その全てを切り捨て、早々とウェルスへの道を歩んだ。
…それが、答えだった。
「…ライトの気持ちを…変えることなんて、出来ないかもしれない」
珍しく弱気なあたしを、兄様は心配そうに見る。
でも。
「…でもね、まだ聞きたいことがたくさんあるの。伝えたいことがたくさんあるの」
楽しかった?
辛かった?
あたしは…楽しかった。
…好きなの。
―――大好きなの。
「その答えがどうであれ…ちゃんと確かめたい」
真っ直ぐに兄様の瞳を見て言うと、兄様は優しく微笑んでくれた。