名のない足跡
1.忍び寄る足音
「おはようございます、ルチル様」
「ん~…」
フォーサス国第一王女、ルチル=セレナイト。
それがあたしの名前。
あたしは、カルム城内の豪華な天蓋付きベッドの上で目を覚ました。
フォーサス国では今、春を迎えていて、窓から差し込む暖かい日差しが気持ちいい。
「おふぁよ、ライト」
あくびをしつつ、朝のあいさつを済ませたあたしは、覚めきっていない両目をこする。
「あーぁ姫様。目をこするのはやめて下さいと、あれほど言ったのに…」
彼、ライト=ディアンは、あたしの護衛隊長だったりする。
いわゆるボディーガード!
ライトはつかつかとあたしの側まできて、「ほら、こすらない」と言ってあたしの両手を掴んだ。
ライトの深い碧色の瞳と、視線が絡む。
「そっ、そんなにこすってないわよッ」
あたしはすぐに目をそらして、ぶつぶつと文句を言う。
そんなあたしをみたライトは、はぁ、とあからさまにため息をつく。
やばい、今絶対顔赤い…!!
ライトは今二十歳で、あたしより三つ上。
身長は確か…180以上はあったと思う。
この国では珍しい、黒に近い髪で、ところどころヘアーワックスではねさせている。