名のない足跡

「で、会いに行くの?」


アズロはきっと…ライトのこと言ってるんだと思う。


あたしは微笑んで、首を横に振った。


「…ライトに会う前に、会いたい人がいるの」


「………ねぇ、もしかしてその人、この国で一番偉い人だったりする?」


「あら、冴えてるじゃない」


あたしがにっこり答えると、アズロが呻いた。


「あ~…そういうコだったよね、君。わかった、こっち」


隠れながらもアズロについてしばらく歩くと、急にアズロが立ち止まった。


「…?アズ…」


「しっ」


人差し指を立てて口元に当て、あたしを振り返るアズロ。


その顔が妙に緊張を帯びていて、あたしは不安を感じた。



そのとき、近くの窓ガラスに反射して映りこんだ姿を見て、戦慄が走った。


ライトだった。


ライトはそっと、一つの部屋に入って行った。


「…多分、ウィリー王の部屋に入ったと思う」


アズロの言葉に、あたしはぎゅっと目を瞑ってから答えた。


「…ちょうどいいわよ。二人いっぺんに話せるんだもの」


「…さっすが」


あたしとアズロは、その扉に向けて、一歩を踏み出した。





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