名のない足跡

†††


俺は扉を開けると、窓の外を見ている父上に向かって、軽く一礼する。



つい今し方、何者かによって庭で火災が発生した。


俺も見に行ったが、魔力による火災の為、鎮火させるのに手こずった。


「…魔力の元を探りましたが、俺の知っている者ではありません」


ゆっくりとそう切り出すと、父上は振り返った。


いつ見ても、その真紅の髪と、対照的な碧い両眼には目を奪われる。


俺は、その碧眼しか受け継いでいない。


「…真か?」


「疑っていらっしゃるんですか?」


眉をひそめてそう言うと、父上は珍しく微笑んだ。


温かさなどはまるで含まないが。


「…ならば、すぐ外の子ネズミ二匹は、お前の知り合いではないのか?」


「……子ネズミ?」


俺が動くより先に、たった一つの扉が勢い良く開いた。


驚いている間に、誰かに後ろをとられ、短剣を首に突きつけられる。


「…おや。久しぶりですね。アズロ」


「そういやそうかもね」


しばらく見ない間に、ずいぶんと腕が上がったようで、かつての上司としては、嬉しく思った。






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