名のない足跡

辿り着いたのは、大広間。


その中央に、父上と彼女は一定の距離を保ち、向かい合う。


俺とアズロは、入り口の隅に立っていた。


「…止めないと、死にますよ」


俺がアズロにそう言うと、ため息が聞こえた。


「止めたって無駄だってこと、あんた知ってんじゃないの?…それにあの子、頑張ってたよ」


…頑張ってた?


一体、何を。



急に、俺たちの周りに障壁が張られた。


「アズロ!危ないといけないから、障壁張っといたから!」


遠くで、彼女が叫ぶ。


以前は、魔術は使えなかったはず…頑張ってたって、魔術のことか?


「習いたての魔術なんかじゃ、父上には勝てない」


「…そう言わずに、見てやってよ」


父上と彼女は、決闘の前の正式な礼をとった。


父上は、本気だ。


「…行くぞ。死ぬ気で戦わんと、死ぬぞ」


「そのセリフ、そっくりそのままお返しするわ」


「…面白い」



途端、両者が動いた。




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