名のない足跡

どのくらいの時間が経ったのだろう。



父上は長剣と魔術で、彼女は魔術のみで戦っていた。


父上の方が有利だ。



けれど、彼女も必死で応戦していた。


少なからず、俺は安心した。



最悪の事態には、まだ陥らないでいる。


けど…いつまでもつのか。


「何でっ、兵器を、狙ったんですかっ!?」


「………」


先程から、彼女は戦いの合間に質問を繰り返している。


だが父上は、それをことごとく無視していた。


「じゃあっ…、何でキラさんを殺したの!?」


父上の瞳が揺れたのを、俺は見た。


俺がずっと聞きたくても聞けなかったことを、彼女は簡単に口にした。


その時だった。



父上の魔術から跳んで逃れた彼女が、バランスを崩し、床に倒れた。


そこに、父上はすかさず間合いを詰める。


彼女を見下ろし、父上は長剣を上に振り上げた。


「―――…っ!!」


アズロが、つかんでいた俺の手を離した。


既に、長剣は少女めがけて振り降ろされつつあった。



―――ちくしょう。





窓の奥で、月が笑った気がした。



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