名のない足跡
4.世界を、君に
ずぶり。
嫌な音が、耳に響いた。
しまった、と思ったときには、もう剣が振り下ろされていた。
…なのに、痛みが一向に襲ってこない。
あたしは恐る恐る、瞑っていた瞼を開いた。
「――――っ…」
信じられない光景が、目に飛び込んできた。
あたしの目の前に、うずくまるように倒れているウィリー王。
長剣は、その手から少し離れた所に転がっている。
そしてその後ろに立つ、ライト。
その手には、真っ赤に染まった短剣が握られていた。
「………大丈夫ですか?」
声を掛けられ、体がビクンと反応する。
「……な、に…して…」
「…父上は平気ですよ。急所は外しました」
…そんなことを聞いてるんじゃないのに。
「…どうして…?」
「どうして?」
あたしの言葉を、ライトはオウム返しのように繰り返した。
そのぶっきらぼうな口調に、あたしは体を強ばらせる。
ライトが短剣の血を布で拭い、鞘に収めてから、口を開いた。