名のない足跡
権力…そんなものなければいいのに、と時々思う。
「…私は常に、他国へ赴き、偵察をしていたんだ。フォーサスへ行った時、たまたまアラゴに出会った」
父様の昔話を聞いたことのないあたしは、熱心に耳を傾ける。
「…私はどこへ行けども、この真紅の髪のせいで遠巻きにされていた。しかし、彼奴は違った。普通に話しかけてきたんだ」
父様は、昔から父様だったんだなぁ、と少し嬉しくなる。
ウィリー王の瞳が、少し和らいだ。
「…その時の私は、フォーサスの情報が手に入れば、それでいいと考えていた。だが、気づけば王子としてではなく、一人の友として、私はアラゴと接したがっていた」
窓の外に映る満月を眺め、ウィリー王は続けた。
「…実際、素晴らしい毎日だった。アラゴは友も多く、紹介してもらいもした。…けれど、ハウラに出会うべきではなかった。私は…」
「私はハウラを、愛してしまったのだ」
ウィリー王は…あたしの母様を愛してしまった。
それが間違えた、愛?