名のない足跡
「俺は姫様に何か言われた覚え、ないんですけど」
爽やかな笑顔でライトにそう言われ、あたしは喉を詰まらせる。
ぜ、絶対からかってる。
「………えと」
「さっきの返事も兼ねて、ぜひ聞きたいです」
「………」
内心では、あたしの分身が悔しくて地団駄を踏んでいた。
でも。
今ここで、気持ちを伝えなくてどうするの?
「……ライト」
「はい?」
ライトの瞳を、しっかりと見る。
「あたし…ライトが好き。あたしの王子様は、出逢ったときからライトだったよ」
………言った!!
けど…
「ライト?」
ライトは無言で顔を伏せていた。
あたしが顔を覗き込もうとすると、いきなり抱き締められた。
「…ちょっ、ライト!?」
「…ずるいです」
「ななな何が!!」
不意に、唇が重なる。
あの日の温もりが、確実なものになる。
「…もう、離しません」
「…あたしも」
あたしとライトは、お互いの存在を確かめ合うように、ただただ、抱きしめ合っていた。
夜空の月が、あたしたちを祝福してくれるかのように、優しく照らした―――…